はじめに
体外受精では、採卵や受精が順調に進んでも、「胚盤胞まで育ちませんでした」と説明を受けることがあります。
採卵ができても、すべての受精卵が胚盤胞まで成長するわけではありません。
一般的に、受精卵の約30〜50%程度が胚盤胞まで発育するとされていますが、この割合は女性の年齢や卵子・精子の状態、培養環境などによって大きく変動するため、発育の途中で成長がゆっくりになったり、途中で停止したりすることは決して珍しいことではありません。
その結果を聞いて、
- 卵子の質が悪かったのでは?
- 精子に問題があったのでは?
- 次の採卵でも同じ結果になるのでは…
と、不安を感じる方は少なくありません。
しかし、受精卵の発育には、卵子だけでなく精子や染色体、細胞分裂の仕組みなど、さまざまな要因が複雑に関わっています。
また、現在の生殖医療でも防ぐことが難しい自然な生命現象が含まれることもあります。
この記事では、受精卵が受精から胚盤胞になるまでの成長過程を日数ごとに解説し、それぞれの段階で成長がゆっくりになる主な理由について、医学的な知見をもとにわかりやすくご紹介します。
さらに、女性だけでなく男性側の要因や、ご夫婦で取り組める身体づくり、妊活専門鍼灸院としてお手伝いできることについてもお伝えします。
受精卵の発育について正しく理解することは、今回の結果を振り返るだけでなく、次の採卵や移植に向けて「今できること」を考える第一歩になります。
受精卵はどのように成長するの?
受精卵は、受精した瞬間から赤ちゃんになるわけではありません。
細胞分裂を繰り返しながら約5〜6日かけて成長し、「胚盤胞」と呼ばれる状態を目指します。
| 日数 | 発育段階 |
|---|---|
| Day0 | 受精 |
| Day1 | 前核期 |
| Day2 | 2〜4細胞期 |
| Day3 | 6〜8細胞期 |
| Day4 | 桑実胚 |
| Day5〜6 | 胚盤胞 |
発育の過程では、それぞれの時期で重要な役割を担う仕組みが変化します。
そのため、成長がゆっくりになるタイミングによって、考えられる原因も異なります。

Day0〜Day1(受精〜前核期)
この時期に起きていること
卵子と精子が出会い受精が成立すると、それぞれが持つ23本の染色体が一つにまとまり、最初の細胞分裂へ向けた準備が始まります。
まだ細胞分裂は始まっていませんが、この時点ですでに受精卵の将来を左右する重要な変化が起こっています。
この時期に影響しやすい要因
卵子の成熟状態
卵子は排卵できる状態であっても、細胞内部まで十分に成熟しているとは限りません。
細胞質の成熟が不十分な場合、その後の細胞分裂に影響することがあります。
精子の状態
精子には卵子まで到達する運動性だけでなく、正常な遺伝情報を受精卵へ届ける役割があります。
DNA損傷が多い場合は、受精してもその後の発育へ影響する可能性があります。
染色体の組み合わせ
受精の瞬間には、卵子と精子の染色体が組み合わさります。
この過程で異常が生じると、その後の発育が順調に進まないことがあります。
Day2(2〜4細胞期)
この時期に起きていること
受精卵は最初の細胞分裂を始めます。
この頃は、まだ胚自身の遺伝子はほとんど働いておらず、卵子の中にもともと蓄えられていた栄養やエネルギーを利用して発育しています。
つまり、この時期は特に卵子が持つ力が大きく影響します。
この時期に影響しやすい要因
細胞質の成熟
卵子は染色体が正常であるだけでは十分ではありません。
細胞質が成熟し、十分なタンパク質やエネルギーを蓄えていることも重要です。
ミトコンドリアの働き
ミトコンドリアは細胞のエネルギーを作る「発電所」です。
細胞分裂には大量のエネルギーが必要なため、ミトコンドリアの働きは受精卵の発育に大きく関わります。
酸化ストレス
活性酸素が過剰になると、卵子や精子にダメージを与える可能性があります。
喫煙、睡眠不足、慢性的なストレス、肥満などは酸化ストレスを高める要因として知られています。
「卵子の質が悪い」と一言では説明できません
採卵後、「卵子の質が影響したのかもしれません」と説明されることがあります。
しかし、「卵子の質」という言葉には、
- 染色体の状態
- 細胞質の成熟
- ミトコンドリアの働き
- エネルギー代謝
- 細胞が育つ環境
など、多くの要素が含まれています。
そのため、「卵子の質が悪かった」と一言で片付けられるものではありません。
また、この時期からは精子の状態も少しずつ発育へ影響し始めます。
受精卵は卵子だけで作られるものではなく、卵子と精子の両方の情報を受け継いで成長していきます。
だからこそ、妊活は女性だけではなく、ご夫婦で取り組むことが大切です。
Day3(6〜8細胞期)
この時期に起きていること
Day3は受精卵にとって最も重要なタイミングの一つです。
それまで受精卵は卵子に蓄えられていたエネルギーを使って細胞分裂を続けていましたが、この頃になると受精卵自身の遺伝子が働き始めます。
これを『胚ゲノム活性化(Embryonic Genome Activation:EGA)』と呼びます。
つまり、「お母さんから受け取った準備期間」が終わり、受精卵自身が成長するためのスイッチが入る時期です。
Day3で発育がゆっくりになる主な要因
染色体異常
最も大きな要因と考えられています。
染色体異常がある受精卵は、この頃から発育がゆっくりになったり、胚盤胞まで到達しなかったりすることがあります。
精子DNAの損傷
Day3頃からは父親由来の遺伝子も本格的に働き始めます。
そのため、精子DNAの損傷(DNA断片化)が多い場合は、受精後の発育へ影響する可能性があります。
胚自身のエネルギー不足
細胞分裂には大量のエネルギーが必要です。
ミトコンドリアの働きや細胞内代謝が十分でない場合には、発育のスピードがゆっくりになることがあります。
Day4(桑実胚)
この時期に起きていること
Day4になると、受精卵は約16〜32個の細胞まで増え、それぞれの細胞が密着し始めます。この状態を**桑実胚(そうじつはい)**と呼びます。
これまで一つひとつ独立していた細胞が協力しながら一つの胚として機能し始め、胚盤胞になるための準備が進みます。
この段階では細胞同士の結びつきや情報伝達が非常に重要になります。
Day4で発育がゆっくりになる主な要因
細胞同士の結合がうまくいかない
細胞同士が十分に密着できないと、桑実胚への移行がスムーズに進まず、その後の胚盤胞形成にも影響することがあります。
エネルギー代謝の低下
細胞数が増えるにつれて必要なエネルギー量も増加します。
ミトコンドリアの働きが十分でない場合、細胞分裂や細胞同士の結合に必要なエネルギーが不足し、発育がゆっくりになることがあります。
染色体異常
Day3に続き、この時期も染色体異常の影響が現れやすい時期です。
細胞分裂を続けられず、発育が停止してしまう受精卵も少なくありません。
Day5〜Day6(胚盤胞)
この時期に起きていること
Day5〜Day6になると、受精卵の内部に液体が入り込み、胚盤胞が形成されます。
胚盤胞では細胞が次の2つに分かれます。
- 内部細胞塊(ICM):将来赤ちゃんになる部分
- 栄養外胚葉(TE):将来胎盤になる部分
この状態まで成長した受精卵は、子宮へ戻す「胚移植」の対象となります。
Day5〜Day6で胚盤胞にならない主な要因
染色体異常
最も多い原因と考えられています。
染色体に異常がある場合、途中までは成長しても、胚盤胞まで発育できず停止することがあります。
これは自然淘汰の一つとも考えられています。
卵子・精子双方の影響
Day5以降は卵子だけでなく、精子由来の遺伝情報も完全に機能しています。
そのため、
- 卵子の加齢
- 精子DNA断片化
- 染色体異常
など複数の要因が重なって発育に影響すると考えられています。
エネルギー代謝
胚盤胞になるためには大量のエネルギーが必要です。
ミトコンドリアが十分に働かなければ細胞は正常に発育できません。
そのため近年では、受精卵の発育とミトコンドリア機能との関係について多くの研究が進められています。
Day3〜Day6で受精卵の成長がゆっくりになるのはなぜ?
ここからは、受精卵が胚盤胞まで成長できるかどうかを左右する重要な時期です。
Day3以降になると、卵子だけではなく、精子から受け継いだ遺伝子も本格的に働き始めます。
そのため、「卵子だけが原因」「精子だけが原因」と考えることは難しく、さまざまな要因が複雑に関係しています。
Day5胚盤胞とDay6胚盤胞に違いはある?
採卵後、
「Day5で胚盤胞になりました」
「Day6まで培養しました」
と説明を受けることがあります。
この違いを気にされる方は非常に多くいらっしゃいます。
Day5胚盤胞
Day5で胚盤胞まで到達した受精卵は、一般的には発育スピードが順調だった胚と考えられます。
移植や凍結保存の対象となることが多く、妊娠率も比較的高い傾向があります。
Day6胚盤胞
Day6で胚盤胞になった受精卵は、Day5より発育に時間がかかった胚です。
しかし、
Day6だから妊娠できないということではありません。
実際にはDay6胚盤胞から元気な赤ちゃんが誕生しているケースも数多くあります。
近年では凍結融解胚移植の成績向上により、Day6胚盤胞でも十分妊娠が期待できることが報告されています。
発育がゆっくりだったからといって、自分を責める必要はありません
受精卵の発育速度には個人差があります。
Day6だったからといって、
「自分の卵子が悪い」
「もう妊娠できない」と考える必要はありません。
受精卵の成長には、
- 卵子
- 精子
- 染色体
- エネルギー代謝
- 細胞同士の情報伝達
など、多くの要因が関係しています。
1回の採卵結果だけで将来の妊娠の可能性が決まるわけではありません。
大切なのは、今回の結果を踏まえ、次の採卵や移植に向けてできることを一つずつ積み重ねていくことです。
受精卵の発育に影響する要因
受精卵の発育は、一つの原因だけで決まるものではありません。
「卵子の質が悪かった」と一言で説明されることがありますが、実際には卵子・精子・染色体・細胞のエネルギー代謝など、さまざまな要因が複雑に関わっています。
年齢
女性の年齢が上がると、卵子の染色体異常が増加しやすくなることが分かっています。
そのため、受精はしても胚盤胞まで発育できない受精卵の割合は、年齢とともに高くなる傾向があります。
一方で、年齢だけですべてが決まるわけではありません。
同じ年齢でも胚盤胞まで育つ割合には個人差があり、生活習慣や体調なども影響すると考えられています。
卵子
卵子には、
- 染色体
- 細胞質
- ミトコンドリア
- エネルギー産生能力
など、多くの要素があります。
そのため、「卵子の質」と一言で表現されても、その中身は非常に幅広いものです。
近年では、十分な睡眠やバランスの良い食事、適度な運動など、生活習慣を整えることが卵子を育てる環境づくりにつながると考えられています。
精子
受精卵は、卵子だけではなく精子からも半分の遺伝情報を受け継ぎます。
Day3頃から父親由来の遺伝子も本格的に働くため、精子の状態も受精卵の発育に大きく関わります。
特にDNA断片化が多い場合は、受精後の成長へ影響する可能性が報告されています。
そのため、男性側の身体づくりも妊活では非常に重要です。
染色体
受精卵の発育が止まる原因として最も多いのが、染色体異常です。
これは誰にでも起こり得る自然な現象であり、受精卵自身が正常に発育できないと判断した結果と考えられています。
そのため、一度成長が止まったからといって、ご自身を責める必要はありません。
エネルギー代謝
細胞分裂には大量のエネルギーが必要です。
そのエネルギーを作っているのが、細胞内にあるミトコンドリアです。
近年では、ミトコンドリア機能と受精卵の発育との関係について研究が進んでおり、生活習慣や栄養状態との関連も注目されています。
妊活専門鍼灸院としてできること
受精卵の発育そのものを鍼灸で直接変えることはできません。
しかし、卵子や精子は数か月かけて育つため、その期間の身体の状態を整えることは非常に大切です。
女性へのサポート
鍼灸では、自律神経や血流のバランスを整えながら、妊娠しやすい身体づくりをサポートします。
冷えや睡眠の質、ストレスなど、一人ひとりのお悩みに合わせた施術を行っています。
男性へのサポート
近年では、不妊の原因の約半数に男性側も関与すると考えられています。
そのため、精子の質を高める身体づくりも、ご夫婦で取り組むことが大切です。
ご夫婦で身体づくりを始めませんか?
採卵や移植までには数か月の準備期間があります。
その期間を有効に活用し、ご夫婦で生活習慣を整え、身体づくりに取り組むことが、次の治療へ向けた一歩になります。
よくある質問
Q. 胚盤胞にならないのは珍しいことですか?
いいえ。受精卵が途中で発育を停止することは決して珍しいことではありません。
Q. Day6胚盤胞でも妊娠できますか?
はい。Day6胚盤胞から元気な赤ちゃんが誕生しているケースは数多くあります。
Q. 成長が止まったら次回も同じ結果になりますか?
必ずしもそうではありません。
採卵ごとに受精卵の状態は異なるため、次回は胚盤胞まで発育することも十分あります。
Q. 鍼灸を受けると胚盤胞になりやすくなりますか?
鍼灸が直接胚盤胞を作るわけではありません。
しかし、身体の状態を整えながら卵子や精子が育つ環境づくりをサポートすることはできます。
まとめ
受精卵の成長が止まることは、体外受精では決して珍しいことではありません。
その背景には、
- 染色体
- 卵子
- 精子
- エネルギー代謝
- 細胞分裂
など、さまざまな要因が関係しています。
一度うまくいかなかったからといって、次回も同じ結果になるとは限りません。
今回の結果を正しく理解し、次の採卵や移植までの期間を身体づくりに活かすことが、将来の妊娠につながる可能性があります。
当院では、妊活専門鍼灸院として、ご夫婦それぞれのお身体の状態に合わせたサポートを行っています。
「次の採卵までに何かできることはないだろうか」
そのようにお考えの方は、どうぞお気軽にご相談ください。